2010年5月14日金曜日

LEDの動向

「白色LEDの未来は、非常に『明るい』。

全ての光源がLEDに置き換わるのは、時間の問題だ」と米University of California, Santa Barbara(UCSB)の材料物性工学部の教授である中村修二氏が言うように、白色LEDを光源に使った照明が広く普及する道筋が明確に見えてきた。

白色LEDは、消費電力が低い「エコ」な光源として、以前から注目されてきたものの、照明として使うにはいくつかの課題があった。課題が解決されつつあることで、次世代照明としての位置を不動のものとしている。

 現在、照明に使われている光源は、主に白熱電球と蛍光灯である。これらに対するLEDのメリットは明確だ(図1)。照明器具のタイプによって異なるものの、同じ明るさ(光束)の白熱電球に比べて消費電力が1/10~1/5と大幅に低い。例えば、消費電力が90W白熱電球と同じ明るさのダウンライト型白色LED照明の消費電力は14W程度である。
一方、蛍光灯に対しては、有害物質であるHg(水銀)を含まないというメリットがある。
既存光源に比べて寿命が長い、白熱電球に比べて大幅に消費電力が低い、蛍光灯で使われているHg(水銀)を含まないなどである。一方で、点光源であるため指向性が強いという側面もある。光源面積が広い主照明向け器具を設計するときには逆にデメリットとなる。照明設計には工夫が必要だ。

 LEDの特長はこれだけではない。
寿命が長いことや点灯特性が優れていること、照明設計の自由度が高いことなどがある。LED照明推進協議会の資料によれば、LED照明器具の寿命は光束が初期の70%になるまでの時間で定義する。

LED照明器具の寿命は、一般的な宅内向けの場合、4万時間に達する。これに対して、白熱電球の寿命は1000~2000時間程度、蛍光灯の寿命は6000~1万2000時間程度である*1)。
 
点灯特性が優れていることは具体的には、-20~80℃という温度範囲で明るさが大きく変化しないことや、スイッチを入れた後に数100ns以下の時間で瞬時に点灯すること、点灯と消灯を繰り返しても寿命が短くならないことを意味する。蛍光灯と比べた際の大きな特長だ。

また、LED照明器具に使われるLEDそのものが小さいため、小型・薄型の器具を比較的設計しやすい。例えば、商品を並べる陳列棚のわずかなスペースに合わせた照明などで生きる。

2010年ころに蛍光灯の効率を超す

 そもそも照明器具には、明るさが適切であることや明るさに極端な「むら」がないことなどが求められる。例えば、日本規格協会(JIS)では、学校の教室では200~750lx(ルクス)といったように推奨照度を規定している。白色LEDを使った照明器具は、基本的にこれらの条件を満たす。これまで普及を促す上での課題とされてきたのは、エネルギの変換効率が低いことや価格が高いことだ。これらの課題も解決されつつある。
 詳しく説明しよう。エネルギ変換効率とは、入力した電気エネルギに対して、どれだけの光エネルギが出力されるかを表した値である。投入した単位電力当たり、出力される光束(明るさを表す指標)で表し、単位はlm/W(ルーメン毎ワット)である。この値が大きければ、同じ明るさの照明を、より低い消費電力で実現できる。LED照明器具の変換効率は、2009年3月時点の業界最高レベルで、光源部面積が広いタイプで84lm/W、光源部面積が小さいタイプでも80lm/Wに達する(図2)。

図2 2010年には直管型蛍光灯の変換効率の100lm/Wを超えるLED照明器具の変換効率は、早ければ2010年には直管型蛍光灯の100lm/Wを超えそうだ。2010年以降も、白色LEDそのものの変換効率は年率20%で向上していき、「2012年には、研究レベルで250lm/Wに達するだろう」(米University of California, Santa Barbaraの中村修二氏)。一般に、照明器具の変換効率はLEDの変換効率の70~80%となる。250lm/WのLEDチップが量産されれば、白色LED照明の変換効率が蛍光灯の2倍に相当する200lm/Wも不可能ではない。

 これまでは白熱電球の変換効率である10~15lm/Wに比べると十分に高かったものの、直管型蛍光灯の90~110lm/Wや電球型蛍光灯の60~80lm/Wに比べると低かった。LED照明の効率改善は進んでおり、すでに電球型蛍光灯に追いついた。直管型蛍光灯に比べても、早ければ2010年ころには上回る見通しだ。
 2010年、さらにその先を見通すとLEDの変換効率の高さは歴然である。既存の光源である白熱電球や蛍光灯の変換効率向上はすでに飽和しており、これから先に大きく高めるのは難しい状況である。これに対してLED照明器具の変換効率は、しばらくは順調に向上する見込みだ。LED照明器具に使う白色LEDそのものの変換効率の向上が著しいためである。LEDのpn接合(発光)部が発した光をうまく外部に取り出すための、LEDチップ構造やパッケージ技術の改善が続いていることなど複数の理由が背景にある。
 今後しばらくは、白色LEDの変換効率は年率20%のペースで向上すると見られる。その結果、「2012年ころには、研究レベルで250lm/Wに達する見通し」(中村氏)。一般に、照明器具の変換効率は、電源回路での電力損失や器具部分での光損失があるために、白色LEDの変換効率の70~80%となる。仮に、250lm/Wの白色LEDが量産されれば、LED照明器具の変換効率が蛍光灯の2倍に相当する200lm/Wも不可能ではない。
1円/lmに近づく
 もう一方の課題である価格に関して、LED照明器具の初期導入コストは、今後順調に低下する見込みである。2009年時点で比較すると確かに、蛍光灯や白熱電球よりも初期導入コストは高い。例えば東芝ライテックの製品資料によれば、100W型の照明器具を36台使う会議室を想定した場合、白熱電球を使った場合が27万円であるのに対して白色LED照明を使った場合は約5倍の137万円、40W型の照明器具を12台使うエレベータ・ホールを想定した場合は、白熱電球が約12万円であるのに対して白色LED照明では約1.8倍の21万円である。
 しかし、LEDの変換効率が向上すれば、目標となる明るさを実現するために必要なLEDの個数が減るため部品コストが下がる。この結果、照明器具の価格も低減する。早ければ2010~2011年には1lm当たりの価格が蛍光灯に追い付く。市場調査会社である矢野経済研究所の資料によれば、電球型蛍光灯の1lm当たりの価格は1~2円、40W型白熱電球では0.2~0.3円である。
 ジャパンソウル半導体の代表取締役を務める村上大典氏は、「現在、照明に使える1W出力クラスの白色LEDでは、1lm当たりの価格が2円を切る品種がある。蛍光灯にだいぶ近付いており、既存光源に匹敵する価格まで低くなるのも時間の問題」と指摘する。矢野経済研究所では、「1lm当たりの価格が1円を切るのは2010~2012年になるとみられる。10年後の(2019年には)0.2円台になる」と予測する。
 現在、白色LED照明を手掛ける各社は、初期導入コストが高くても、使用時の電力料金が安価であることや寿命が長いことを考慮に入れると、白熱電球や蛍光灯に比べて総コストが低く抑えられることをアピールしている。総コストが低いだけではなく、初期導入コストも下がれば白色LED照明の普及は加速するだろう。
 次世代照明に白色LEDが広く使われる理由は、既存の白熱電球や蛍光灯に比べて、上記に説明したような特徴があるだけではない。白熱電球の製造を中止するという世界的な流れも、白色LED照明の普及に拍車をかける。
 例えば、日本国内の照明メーカー各社は、宅内向け白熱電球の製造を2012年ころに中止する方針である。例えば、東芝ライテックは2010年をめどに製造を中止することを表明している。このほか、三菱電機オスラムやNECライティングも2012年までに製造を中止する予定である。パナソニック電工は、「近い将来、LED照明器具が主力製品になる」(同社)として、白熱電球の割合を低減していく考えだ。
白熱電球の製造中止が普及に拍車
 このような動きは日本国内だけではない。グローバルネットが2009年2月に開催したセミナー「世界の次世代照明、その技術と市場の現在と今後」で講演した、マルチタスク・カンパニーの服部寿氏の資料では、「アイルランドやオーストラリア、カナダ、米カリフォルニア州、欧州といった世界各地域で白熱電球を廃止する動きが広がっている」と説明している。白熱電球の製造が中止されたその先、長期的に見れば水銀を使う蛍光灯に関しても、製造が規制される可能性がある。「米国は2020年に蛍光灯を廃止する計画」(同資料)。
移り変わりは如実
 2009年3月に開催された照明関連の展示会「ライティング・フェア 2009」の展示内容は、このような既存の照明光源からLED照明への移り変わりを如実に示したものだった。同展示会のセミナー「LEDと有機ELが切り開く照明の未来」で講演したUCSBの中村氏は、照明光源の移り変わりについて、「2009年の今回は、LED照明の割合は過去最大だろう。ほとんどの光源が白色LEDで、非常に嬉しいことだ」と語った。「2年前の同じ展示会では、LED照明の展示は半分程度だった。ところが今回は全体の90%以上がLED照明で、予想以上の割合だ」(ジャパンソウル半導体の村上氏)。
 ひとくちに照明と言っても、一般住宅や店舗、大規模な商業施設、オフィス、ホテルなどと使われる場所はさまざまだ。照明の種類も主照明に使うダウンライト型や埋め込み型、補助照明に使うスポットライト型など複数ある。照明メーカーは、すべての照明をLEDに置き換える「まるごとLED」を訴求する(図3)。
図3 さまざまなタイプのLED照明器具の開発が進む照明器具を手掛ける各社は、一般住宅や各種商業施設、ホテル、オフィスといったさまざまな場所に向けたLED照明器具を開発している。(a)はライティング・フェア 2009での東芝ライテックの展示。光源面積が広いベースライト型や、ダウンライト型、白熱電球を置き換え可能なタイプなどを一般住宅を模したブースで展示した。(b)はパナソニック電工の製品発表会の様子。2009年の春以降順次、合計340品種を製品化する。(c)は日立ライティングが同展示会で見せた展示。店舗の陳列棚に向けて、幅が狭くて厚みが薄いLED照明器具を開発した。光を拡散させる導光板を使って、色むらが無い照明を実現したという。(d)は和紙製造を手掛ける企業である太陽が同展示会で披露した、和紙と白色LED照明を組み合わせた器具。

 まずは、低消費電力や長寿命といったLED照明の効果が顕著な用途から広める。例えば、長時間点灯したまま使う常夜灯やエレベータ・ホール、エントランス、通路/廊下などの照明器具、取り替えが難しい場所で使う照明器具などである。その後、さまざまな場所の局所照明から主照明へと本格的に普及していく見込みだ。
 すでにLED照明は、さまざまな場所に続々と導入されている。例えば、東芝ライテックは大規模商業施設である「ラゾーナ川崎プラザ」に「一括納入として過去最大となる」(同社)約2300台ものダウンライト型LED照明器具を納入した。パナソニック電工は、「公共空間として過去最大となる」(同社)1550台のLED照明器具を、JR北海道の「新千歳空港駅」に納入した。ホテルや旅館、コンビニエンス・ストア、電車/新幹線、オフィス、工場などで、先駆的な取り組みとして採用が始まっている。
 既存の光源を置き換えながらLED照明の市場は今後、大きく拡大する。「2008年には402億円だった全世界の照明用白色LED市場は、2013年には約10倍の4130億円、2018年には約18倍の7080億円の規模に成長する」(矢野経済研究所)。照明器具の国内市場について見ると、白色LED照明の占める割合は、2020年には1兆2000億円になる照明器具市場のうち、約40%に相当する5000億円に達するという予測がある。
消費電力をさらに抑える
 LED照明器具の消費電力は、白熱電球に比べると1/10~1/5と少ない。さらに、すばやく点灯して調光が比較的容易、光の指向性が高いといったLEDの特性をうまく活用すれば、照明器具の消費電力をより一層低減可能だ――。このような発想に基づいた取り組みがある。
 窓から入る光の量に合わせて照明をオン/オフしたり、照明光の明るさを調整したりする照明器具を設計すれば、消費電力を削減できる。すばやく点灯し調光が比較的容易という特性が生きる。具体的には、照度センサーと調光を制御する仕組みを組み合わせて、部屋の明るさを一定に維持しつつLED照明器具に供給する電力を下げる。例えばロームは「ライティング・フェア 2009」で、外部から部屋に入る光の量に応じてLED照明器具の光を細かく調整するデモを見せた(図A)。同社によれば、「夜間の時間帯を想定した場合に80Wだった消費電力を、日中には0.3W程度に抑えられる」とする。
図A LED照明器具の特性を生かして、消費電力をさらに削減窓から入る光の明るさに合わせて、照明器具の明るさを自動的に調整する仕組みを実現すれば、消費電力を大きく削減できる。白色LED照明のすばやく点灯し、点灯と消灯の繰り返しに強く、調光が比較的容易といった特長が生きる。写真はライティング・フェア 2009でロームが見せたデモの様子。同社の照度センサーと調光制御IC、LED駆動ICを使った。

 またパナソニック電工は、人が感じる明るさをうまく照明配置に反映させることを目的にした照明設計支援ツールを開発した。LED照明器具の光の指向性は、既存の光源と大きく異なる。この設計支援ツールを使えば、光の指向性が高いというLED照明器具の特性を生かしながら、最適な明るさを確保する照明配置を実現できる可能性がある。
 具体的には、「明るさ感(Feu、フー)」と呼ぶ新たな指標を導入する。「これまでは床の水平面の照度のみを照明配置設計に使うのが一般的だった。しかし、人が感じる明るさと、水平面の照度は異なることがあった」(同社)。そこで、照明の指向性(配向)をはじめ、天井や部屋側面の反射率、窓の数、部屋の形状や大きさといったパラメータを総合的に使って、人の視線に入ってくる明るさを算出する。算出した数値を、例えば「Feu8」といったように表現する。この指標を使えば、照明器具の数や消費電力を削減しながらも、人が感じる明るさを一定に維持することが可能になるとする。このほか、岩崎電気も人が感じる明るさを評価する「光環境評価システム」を開発した。このシステムも、照度だけではなくほかのパラメータも考慮に入れて照明の配置などを最適化しようというものである。光が照射される対象物と周囲環境の輝度を比較するなどして、人が感じる明るさを定量的に評価するという。
*1. 照明学会が2005年に発行した資料「照明の基礎知識」による。